問題1.6 複素射影直線上の有理型関数は同次多項式の比で書ける.

この問題には略解が付いていないので, 多少需要があるでなかろうか.
さて問題文は以下の通り(p.16*1

問題 1.6  [X_0,X_1] \mathbb{P}^1の同次座標とする. F(X_0,X_1),G(X_0,X_1)を次数がともにmである同次多項式とする. また, 多項式としてG(X_0,X_1)\neq 0とする. このとき. F(X_0,X_1)/G(X_0,X_1)\mathbb{P}^1上の有理型関数を定めることを示せ. 逆に\mathbb{P}^1上の有理型関数はすべてこのようにして得られることを示せ.

まず次を思い出しておこう.

 \mathcal{M}_{\mathbb{P}^1}({\mathbb{P}^1})=\mathbb{C}(z)

これは\mathbb{P}^1上の有理型関数全体は,\mathbb{C}_z上の有理関数の延長全体である,という主張. つまり解析的に定義されたものが,よく代数的なもの(有理関数体)と同じだという素敵な命題だ.
しかし, \mathbb{P}^1z座標で書かれているので少し不満が残る(?). 二つの座標zwを同等に扱った同次座標ではどのような函数体になっているかが気になるのである.

さて問題にとりかかろう. まずは, F(X_0,X_1)/G(X_0,X_1)\mathbb{P}^1上の有理型関数を定めるかを調べよう.

F(X_0,X_1)=\sum_{i+j=m}a_{ij}X_0^iX_1^j
G(X_0,X_1)=\sum_{i+j=m}b_{ij}X_0^iX_1^j where \{b_{ij}\}\neq\{0\}.

ここで, P =[x_0,x_1]\in \mathbb{P}^1に対して (F/G)(P):=F(x_0,x_1)/G(x_0,x_1)と定めよう.
ここでPの別の代表元[y_0,y_1]=[\lambda x_0,\lambda x_1]に対して,
F(\lambda x_0,\lambda x_1)/G(\lambda x_0,\lambda x_1) =(\sum_{i+j=m}a_{ij}(\lambda x_0)^i(\lambda x_1)^j)/(\sum_{i+j=m}b_{ij}(\lambda x_0)^i(\lambda x_1)^j) =(\sum_{i+j=m}\lambda^ma_{ij}( x_0)^i(x_1)^j)/(\sum_{i+j=m}\lambda^mb_{ij}(_0)^i(x_1)^j) =(\sum_{i+j=m}a_{ij}( x_0)^i(x_1)^j)/(\sum_{i+j=m}b_{ij}(_0)^i(x_1)^j) =F(x_0,x_1)/G(x_0,x_1)

したがって上の(F/G)(P):=F(x_0,x_1)/G(x_0,x_1)はwell-definedeなわけですね.
さて正則性について議論するためには(F/G\mathbb{C}_z\mathbb{C}_w上での表示を見てみよう.

h_z(z):=(F/G)([1,z])
h_w(w):=(F/G)([w,1])
ここでh_z(\frac{1}{w})=(F/G)([1,\frac{1}{w}])=(F/G)([w,1])=h_w(w) on \mathbb{C}_{w}^{*}となっていることにも注意しよう.
h_z(z):=(F/G)([1,z])=F(1,z)/G(1,z)=(\sum_{i+j=m}a_{ij}1^iz^j)/(\sum_{i+j=m}b_{ij}1^iz^j)

=\left(\sum_{j=0}^m  (\sum_{i=0}^{m-j} a_{ij})  \cdot   z^j\right) / \left(\sum_{j=0}^m  (\sum_{i=0}^{m-j} b_{ij})  \cdot   z^j\right)
これは\mathbb{C}_z上の有理型関数である.

全く同様に,
h_w(w):=(F/G)([w,1])=F(w,1)/G(w,1)=(\sum_{i+j=m}a_{ij}w^i1^j)/(\sum_{i+j=m}b_{ij}w^i1 ^j) =\left(\sum_{i=0}^m  (\sum_{j=0}^{m-i} a_{ij})  \cdot   z^i\right) / \left(\sum_{i=0}^m  (\sum_{j=0}^{m-i} b_{ij})  \cdot   z^i\right)
これは\mathbb{C}_w上の有理型関数である.

したがって上の(F/G)\mathbb{P}^1上の有理型関数を定める.

逆に\mathbb{P}^1上の有理型関数hは,
次数がともにmである同次多項式F(X_0,X_1),G(X_0,X_1)が存在して,h=(F/G)となることを示そう.

 \mathcal{M}_{\mathbb{P}^1}({\mathbb{P}^1})=\mathbb{C}(z)

今勝手に\mathcal{M}_{\mathbb{P}^1}({\mathbb{P}^1})hを取ってくると,
h\mathbb{C}_zの上の有理関数(f/g)(z)=\left(\sum_{i} f_i z^i\right)/\left(\sum_{j} g_j z^j\right) \in \mathbb{C}(z)が存在して,
h([1,z])=(f/g)(z).
ここで F(X_0,X_1):=X_0^{\max\{deg(f),deg(g)\}} \cdot f(\frac{X_1}{X_0}), G(X_0,X_1):=X_0^{\max\{deg(f),deg(g)\}} \cdot g(\frac{X_1}{X_0})とする. こうすると二つとも次数m:=\max\{deg(f),deg(g)\}の同次多項式となる. さらに(F/G)([1,z])=(f/g)(z)(=h([1,z])となることも容易に確認できますね.
したがって(F/G)=hであることがわかる.

*1:小木曽啓示 (2002) 「代数曲線論」 朝倉書店